不確実な人生で運を味方につけるには
東京都の休業要請も、本日6月19日に全面解除となりました。
一見、日常生活が戻りつつあるようですが、マスクを付けながらの生活が続き、第二波への警戒があるなかでは、心の中のアラームが鳴り止むのはまだ先のことではないかと思います。
この状況では旅行や観光などは控えている方も多いのではないかと思いますし、そうした業界で働かされている方には先行きへの不安は拭えない状況が続いているのではないかと思います。
人生は予期できないことの連続ですが、それはキャリアにおいても同じことです。
旅行業界や観光業界のみならず、様々な業界においてこれから先のキャリアプランの変更を迫られている方もいるかもしれません。
けれど、こうした不測の事態、偶然の不運をネガティブに捉える必要はないと主張する研究者がいます。
スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ(John D. Krumboltz)教授です。
クランボルツ教授は、1999年にサンフランシスコシティカレッジのキャリアカウンセラーのKathleen E. Mitchellと、 カリフォルニア州立大学の助教授のAl S. Levinと共に、
計画的偶発性理論/プランドハプンスタンス理論(Planned Happenstance理論)を提唱し、キャリアにおける運や偶然が果たす役割を指摘し、むしろそれを味方につける重要性を指摘したのです。
今回のブログでは、このプランドハプンスタンス理論を紐解きながら、この先行きが見えない状況を味方につける考え方をご紹介したいと思います。
この考えは、現在のような状況でより良いキャリアを考える上でも重要なヒントをくれますが、不確実な人生において、運を味方につけて生きていくためにもとても役に立つ考えだと思います。
これまでのキャリアプランの考え
キャリアプランは、年功序列や一つの会社で一生働き続けるということがそれほど当たり前では無くなってきた現代において「自分がどんな未来を理想としているのかを明確にして、そこに辿り着くための具体的な計画が必要」だという考え方に基づきます。
そして、この考えの根底には、「将来が(ある程度は)予測できる」という前提があります。
けれど、本当に将来は予測できるのでしょうか。
私たちの人生は研究室のような無菌状態にあるのではなく、実は様々な不確定要素に満ちているというのが現実であるということを、私たちは忘れていたのではないでしょうか。
第二次世界大戦の終戦から75年、日本では多くの大災害も経済的なショックも起こりましたが、世界全体がひっくり返ってしまうような出来事というものを経験して来ませんでした。
戦後続いてきた平和な世界においては、「将来を予測して、未来の目標とそこに辿り着くための具体的な計画を立てる」という方法は、効果的であったのだと思います。
「平和ボケ」という言葉があるように、私たちは心の何処かで今ある日常はこのまま何も変わらず続いていくという幻想を抱いてしまっていたのではないかと思います。
キャリア支援の立場には、運や偶然などの不確実な要因の重要性に注目するものは以前から存在していました。けれど、それらはどちらかというと否定的な見方をされることが多かったのです。
一方で、コロナ以前から、IT技術の進化に伴う大きな社会の変化がやってくること、それに沿ったこれから先の未来の仕事環境の変化については言及されてきました。
おそらくそうした状況の変化も受けて、この数年で、これまでは否定的に紹介されることの多かったプランドハプンスタンス理論が、再評価されてきています。
プランドハプンスタンス理論とは
「将来が予測できる」という前提とは反対の、「人生は偶然に支配されている」「キャリアはコントロール可能なものではない」という立場に立った上でキャリア支援を考えようとするのがプランドハプンスタンス理論です。
クランボルツ教授はこう言います。
“人生の目標を決め、将来のキャリア設計を考え、自分の性格やタイプを分析したからといって、自分が望む仕事を見つけることができ、理想のライフスタイルを手に入れることができるとは限りません。”
“人生には、予測不可能なことのほうが多いし、あなたは遭遇する人々や出来事の影響を受け続けるのです。”
その事実を認めた上で、こうしたコントロールできない、予期できない偶然の出来事、不運や幸運を積極的に活かしていこうとするところに、この理論の大きな特徴があります。
クランボルツ教授は、成功したビジネスパーソンの80%の方が、自分のキャリアにおいて「偶然の出来事」が果たした役割が大きかったことに言及したと指摘しています。
ただ、彼らはただ何もせずに、天から降ってきた幸運を享受した訳ではないのです。
こうした「偶然の出来事」によって成功した人々にはある共通した行動特性が見られたと言います。
そして、私たちが彼らと同じように偶然の出来事を味方につけて人生をより豊かなものにするには、5つのスキルを磨いていく必要があると言います。
その行動特性、5つのスキルとは次のものです。
1. 好奇心(Curiosity): 新しい学びの機会を模索する(exploring new learning opportunities)2. 持続性(Persistence): たとえ失敗しても精一杯努力し続ける(exerting effort despite setbacks)
3. 柔軟性(Flexibility): 姿勢や状況を変えていく(changing attitudes and circumstances)
4. 楽観性(Optimism): 新しい機会には可能性があり達成できるものと考える(viewing new opportunities as possible and attainable)
5. 冒険心(RiskTaking): 結果がどうなる分からない状況でも恐れず行動する(taking action in the face of uncertain outcomes)
お気づきかも知れませんが、私たちは赤ん坊の時は、皆こうでした。
身の回りにあるもの全てに興味を持って、手当たり次第にそれを口の中に入れてみたりしていたのです。
何度立ち上がることに失敗しても、めげずにまた立ち上がろうとしていたのです。
もちろん、失敗を学んで、恐れることを学ぶことはサバイバルする上では重要なことですから、赤ん坊のように何も考えずにやみくもに手を出すように戻るという意味ではありません。
私たちは学んだから恐くて、恐いから躊躇うのです。
私たちは失敗=痛みだと学びました。
だとしたら、もう一度、「失敗」について違う視点から学び直す必要があるのかも知れません。
クラムボルツ教授は、失敗についてこう言います。
●失敗や間違いはよく起こることであり、当たり前のことであり、学びのあるものだということを認識しよう●自分の失敗を活かそう
●他の人の失敗から学ぼう
●どんな意思決定にも偶然性が影響していることを理解しよう
●失敗に対して建設的に取り組もう
●前へ進もう
つまり、失敗とは当たり前に起こる避けられないもので、そこから学んだり成長したりできるものだということ、失敗=学びだということを失敗を通して学んでいく必要があるのでは無いでしょうか。
こうしたことを踏まえて、クランボルツ教授は私たちにこう助言します。
* キャリアに影響を及ぼすような予期せぬ出来事は、正常であり、避けられないことであり、望ましいことであることを認めよう。* 優柔不断な状態/決められない状態は、解決すべき問題ではなく、将来の予期せぬ出来事を利用できるようにするための計画的なオープンマインドの状態だと考えよう。
* 予定外の出来事を、新しい活動を試したり、新しい興味を持ったり、古い思い込みに挑戦したり、生涯学習を続ける機会として利用しよう。
* 将来、有益な予定外の出来事が起こる可能性を高めるための行動を開始しよう。
* キャリアを通した学習のための継続的なサポートを受けよう。
今ほど、プランドハプンスタンス理論を活用するのに絶好の機会はありません。
私たちの好奇心と、オープンマインドで新しいものを探っていくような感覚を大事に、この予測できない状況を進んでいきましょう。