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マズローの欲求の階層説

マズローの欲求6段階.001

心理学の発展について、またマズローの欲求階層説についてアップしましたので、コチラでもご紹介します。

心理学の大きな流れ・4大勢力についてはコチラ→心理学の大きな流れ・4大勢力


アメリカの心理学者、アブラハム・マズロー(1908—1970)は、プロフェッショナル人生をかけて「人生の意味」について探求した心理学者です。

 

そして、人間が持つ「成長したいという欲求」を明らかにして、心理学の第3の勢力である人間性心理学を牽引しました。

 

 

そんなマズローが、1943年彼が35歳の時に”A Theory of  Human Motivation”(人間の動機づけに関する理論)を発表し、欲求の段階説を提唱しました。

 

この理論で、マズローは人間の行動のモチベーションの基礎を作る、5つの核となる欲求を指摘します。

 

 

① 生理的欲求 →  食べたい、飲みたい、眠りたい 

② 安全の欲求 自分の身の安全を確保したい

③ 愛と所属の欲求 集団に属したい/愛されたい

④ 承認欲求 自分の価値を認められたい

⑤ 自己実現欲求 自分の持っている可能性を発揮したい

 

 

マズローは「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、この5つの欲求は、1番から順に現れて、その欲求が完全にではなくてもある程度満たされることで、次の欲求が現れると考えました。

 

つまり、食べるものや水が無い状態、眠れないような状態では、それを手に入れることが第一優先となり、「周囲の人から認められたい」といった承認欲求は出てこないということになります。

 

(ただ、晩年のマズローはこの階層的に欲求が現れるということを否定したという説もありますし、近年ではこれらの基礎的な欲求についての見直しも行われています)

 

 

そしてこの5つの欲求のうち、5番目の自己実現欲求を「成長欲求(growth need)」と呼び、それ以外の1から4までの欲求と分けました。

 

1から4までの欲求は、「欠乏欲求(deficiency needs)」と呼び、それが満たされない時、足りないと感じる時には、不満感、苦しみ、不足感を感じるものです。

 

例えば、病気、飢餓感、孤独、自己不信といったものは、この欠乏欲求が満たされないことによる副産物です。

 

一方で、成長欲求はあなたを幸せにしてくれるものですが、それが満たされないからといって苦しみは生み出しません。こうして、マズローはこの1から4までの基盤となる欠乏欲求が満たされた時に、自己実現欲求が優先されると言います。

 

 

ですからマズローの説によると、「自己実現欲求」を満たして幸せになるには、まずは1から4までの欲求をちゃんと認めて、それを満たすことが優先だと言うことになります。

 

 

ただ面白いことに、一度4番目までの基盤となる欠乏欲求をきちんと満たした経験があると、この欠乏欲求が満たされないことに対して耐性ができるといいます。そのため、この4つが満たされないような状況でも、自己実現のために活動することができるようになるのです。

マズローは、上位の欲求は下位欲求が満たされることで出現すると考えましたが、実際にはそうした順番通りに行かないことを経験されている方も多いのではないでしょうか。


例えば、愛と所属の欲求は満たされているのに、仕事が安定しないことによって、あるいは健康を害してしまったことで安全欲求が満たされないこともあります。


あるいは、周囲の人と本当に深い信頼関係で繋がったり、受け入れられている感覚を感じられないまま、つまり愛と所属の欲求が満たされないままに、それを埋め合わせるように、承認欲求を満たそうとしたり、自己実現に走ってしまうこともあるでしょう。



もちろん、だからと言ってそれが悪いわけではありませんが、自分が本当に満たそうとしている欲求は何なのか、穴が空いてしまっている欲求は何なのかを、マズローの欲求から振り返ってみることは大事かも知れません。


これらの欲求は、全て満たされている人が価値があるとか、人間として上だというようなものではもちろんありません。全ての欲求を満たすことが出来ないような状況に置かれていることもあると思います。


ただ、やはりこれらの欲求は、無視したり、軽視するのではなく、認めて、引き出して、満たしてあげることによって、より健康に、そして幸せな気持ちを感じられることには違いありません。


また、これらは人と比べるようなものではありません。例えば、自分の置かれた状況のなかで「安全」だと感じられるために今の自分に出来る小さな事をしてみる​​​、人との繋がりを感じるために今、自分の周囲にいる人を大事にしてみたり心を開いてみる、承認欲求を満たすために、小さなチャレンジをしてみる。

今の自分にとって可能な事を少しずつ、を積み重ねていく事で、そうした欲求を自分なりに満たして行ってあげることは出来るのではないかと思いますし、その姿勢が重要ではないかと思います。

 

では、自己実現欲求が満たされるとどうなるのでしょうか?そこで終わりでしょうか?

 

実は、マズローは晩年に、5番目の「自己実現の欲求」の後に⑥「自己超越の欲求」と言うものを付け足しました。

 

本来マズローは5番目の「自己実現」の中に「至高体験(Peak experience)」という概念を含めていました。

 

至高体験とは、日常的な意識とは異なる変性意識状態であり、マズローは”至福と達成感の瞬間”(moments of highest happiness and fulfillment)と表現しました。

 

また、それは"稀で、刺激的で、大洋のようで、深く感動的で、爽快で、高揚感のある体験で、現実を知覚するための高度な様式を生み出し、実験者に与える影響は神秘的で魔法のようなものでさえある" (”rare, exciting, oceanic, deeply moving, exhilarating, elevating experiences that generate an advanced form of perceiving reality, and are even mystic and magical in their effect upon the experimenter.”)と言っています。

 

そこに暗示されているのは、この至高体験が小さな自分というものが溶解していくような、自己超越的なものであるということです。

つまりマズローは最初から自己実現の中にこうした自己超越的な体験を含めていたのですが、自己実現欲求が様々な人や領域で注目されるにつれて次第に単純化されていってしまったという背景があるのです。

 

自己超越の重要性についてマズローは、こんな風に言います。

“超越とは、手段というよりも目的として、自分自身、重要な他者、人間一般、他の種族、自然、コスモス(宇宙)に対して、行動し関わる、非常に高く最も全体的な、あるいはホリスティック(包括的)な人間の意識のレベルを指します。” 
 

“Transcendence refers to the very highest and most inclusive or holistic levels of human consciousness, behaving and relating, as ends rather than means, to oneself, to significant others, to human beings in general, to other species, to nature, and to the cosmos” .

 

 

「自己超越欲求」については、後ほど、各欲求を一つずつ見ていくときにまた詳しく紹介します。

 

それでは、ここからは、それぞれの欲求を一つずつ見てみます。

 

① 生理的欲求(Physiological needs)
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ここには生き物としての、もっとも基礎的な身体的・生理的・本能的欲求が入ります。いわゆる3大欲求と呼ばれる、食欲、睡眠欲、性欲だけでなく、呼吸、水分、休息、排泄に対する欲求も、この生理的欲求に該当します。

 

水の中で溺れそうになっている人は、酸素、呼吸することを求めて、無我夢中でもがくように、呼吸ができなくてはそれ以外のことは何も考えられないくらいの重要な欲求です。これらの欲求を、きちんと満たすことが全ての出発になります。

 

 

② 安全の欲求(Safety needs
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生命のベースとなる生理的欲求が満たされると、次に出てくるのは「身の安全を確保したい」という欲求です。

 

これは、普段、平和な日本で生活を送っている方にはピンとこないかも知れませんが、災害にあった時など急にそれらは切実な欲求となりますし、収入が安定しない仕事をされている方は「安定した仕事に就きたい」と感じる時には、この「安全の欲求」がモチベーションになっています。

 

急に仕事を失ったり、様々な事情で仕事や家を失ってしまった方にとっては、自分の身を安全に守れる場所の確保、経済的な安定が一番の優先事項になります。それが得られない状況の中で、「どうやったら自分の可能性を最大限に発揮できるだろうか」という欲求は出現しないのです。

 

また、この「安全の欲求」には「感情的な安定」「健康の安心・安定」といったものも含まれますので、精神的な病を抱えていたり、身体的な病気になってご自分の健康に不安を感じている方にとっても、この安全感・安心感が満たされていないと感じるでしょう。

 

 

 

③ 愛と所属の欲求(Love and belonging needs
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さて、生理的欲求、安全の欲求が安定して得られると、次に出現する欲求は「愛と所属の欲求」です。

 

この欲求は、社会的欲求と呼ばれることもありますが、例えば、同僚のチームに属することから、組合、クラブあるいは趣味のグループなどの一員として受け入れられていると感じる時に「自分が社会に必要とされている、果たせる社会的役割がある」という感覚が得られ、この欲求は満たされます。

 

また、他者に受け入れられている、どこかに所属し、そこで受け入れられているという感覚も「愛と所属の欲求」が満たされるのに重要ですが、例えば、それらは友情、家族(両親、兄弟姉妹、子供)、夫婦・パートナーとの間に身体的・感情的な親密さ、絆が感じられることによって満たされます。

 

 

④ 承認欲求(Esteem needs
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ここからは、自我(エゴ)によって突き動かされる欲求となります。

 

承認欲求の主な要素は、自己肯定感(自分は価値がある存在で尊重を受けるに値すると信じられること)と自尊心(自己成長と何かを達成する可能性に自信が持てること)です。

 

承認欲求には、2つのタイプがあるとマズローは言います。

 

一つは他者からの尊敬や承認に基づく自尊心、そしてもう一つは、自己信頼感や自律性を得ることで出現する自尊心で、他者からの評価よりも自己評価に基づくものです。

 

◽️ 他者からの尊敬や承認に基づく自尊心・・・他者からの評価、地位、他者との比較による優越、名誉といったものを求める欲求

 

◽️ 自己評価に基づく自尊心・・・スキルの熟達、自己の能力への自信、何かを達成すること、自由と独立といったものを求める欲求

 

 

⑤ 自己実現欲求(Self-actualization needs
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こうして1から4までの欠乏欲求が満たされた時に、優先される欲求が自己実現欲求です。

自己実現欲求とは、自分の持つ人としての最大限の可能性を発揮したい、それを具現化したいという欲求です。


マズローは自己実現の欲求について、こんな風に言います。


”自分自身、最高に平穏であろうとするなら、音楽家は音楽をつくり、美術家は絵を描き、
 詩人は詩を書いていなければいけない。人は、自分がなりうるものにならなければいけない。人は、自分自身の本性に忠実でなければならない。このような欲求を、自己実現の欲求と呼ぶことができるであろう”



マズローは自己実現を果たしたと思われる個人を研究し、自己実現者に見られる共通の特徴を見出しました。彼が研究した人の中には、アブラハム・リンカーン、トーマス・ジェファーソン、アルバート・アインシュタインなどがいます。


マズローがMotivation and Personality『動機と人格』)の中で挙げた自己実現者の特徴のうち、主要なものをあげてみます。(訳は筆者によるものです)


1) 自己実現した人は、未知のものや曖昧なものを受け入れる
Self-actualized people embrace the unknown and the ambiguous.


2) すべての欠点と一緒に自分自身を受け入れる
They accept themselves, together with all their flaws.

3) 目的地だけでなく、旅を優先して楽しむ
They prioritize and enjoy the journey, not just the destination.
 
4) 本質的に型にはまらないが、ショックを与えようとしたり、邪魔をしようとはしない
While they are inherently unconventional, they do not seek to shock or disturb.


5)欲求を満たすことではなく、成長によって動機づけられている
They are motivated by growth, not by the satisfaction of needs.
 
6) 自己実現した人には目的がある
Self-actualized people have purpose.


7) 些細なことで悩まない
They are not troubled by the small things.


8) 自己実現した人は感謝している
Self-actualized people are grateful.


9) 少数の人々と深い関係を共有しているが、全人類に対する一体感と愛情も感じている
They share deep relationships with a few, but also feel identification and affection towards the entire human race.

10) 自己実現している人は謙虚である
Self-actualized people are humble.


11) 自己実現した人は周りの文化に組み込まれることに抵抗する
Self-actualized people resist enculturation.

12)  にもかかわらず、自己実現している人は完璧ではない
Despite all this, self-actualized people are not perfect.

 

注意したいのは、これらの記述は「自己実現者になるためのチェックリスト」ではありませんし、これらを全て満たしていないと自己実現者にはなれないというようなものでもありません。


 

自己超越欲求(Self-transcendence needs
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1971年に出版されたマズローのThe Farther Reaches of Human Nature『人間性の最高価値』)という本の中に、”Theory Z”(Z理論)という章があります。

その書き出しは、こうです。

“私は最近、自己実現している人々を二種類(あるいはより良いもの、度合い)に区別することがますます有用であることに気がついたのです。明らかに健康ではあるが超越の経験をほとんど、あるいは全くしていない人々と、超越的な経験が重要であり中心的でさえある人々です。”

“I have recently found it more and more useful to differentiate between two kinds (or better, degrees) of self-actualizing people, those who were clearly healthy, but with little or no experiences of transcendence, and those in whom transcendent experiencing was important and even central.” 


冒頭でも書いたように、マズローが晩年になって自己実現した人々の中にさらに二種類の人々の違いを区別し、自己実現欲求の次に来るものとして追加したのが自己超越欲求です。


そして、自己実現者と自己超越者の最も大きな違いとして挙げたのが「至高体験」の重要性「在ること」への認識、そして「高原体験(plateau experience)」です。

(*「高原体験(プラトー体験)」とは、至高体験よりも、感情的ではなくより穏やかで静かな、自発的に体験できる、驚異や一体感、「在ること」の価値に対する反応としてマズローが名付けたものです。


では自己超越における次元として重要視した「至高体験」について、もう少し見てみます。マズローは、至高体験をこんな風にも表現しています。

“ビジョンに無限の地平が開けていく感覚、かつてよりも力強く同時に無力になっていく感覚、大いなる恍惚感と驚異と畏敬の念、時間と空間における定位の喪失感、最後に、非常に重要で貴重なことが起こったという確信を得て、その対象者はこのような体験によって、日常生活においてもある程度変容し、強化されていく。”

"feelings of limitless horizons opening up to the vision, the feeling of being simultaneously more powerful and also more helpless than one ever was before, the feeling of great ecstasy and wonder and awe, the loss of placing in time and space with, finally, the conviction that something extremely important and valuable had happened, so that the subject is to some extent transformed and strengthened even in his daily life by such experiences.”

ここで、マズローがTheory Zの中で、自己実現者にはあまり見られずに、自己超越者によく見られる特徴としてあげた24の特徴を見てみます。(訳は筆者によるものです)


1)  至高体験と高原体験が人生で最も重要なものとなる

2) さらりと、普通に、自然に、そして無意識で「在ること(Being)」の言葉で話す

3) 彼らは一体的に、あるいは聖なるものとして物事を知覚する(すなわち、世俗的なものにおける聖なるものを知覚する)

4) より意識的に、より意図的に高次のものへ動機づけられている

5) 超越者は互いに認識しあい、初対面でもすぐに打ち解けて親しくなる

6) 美に対して反応しやすく、、全てのものを美化する。より容易に美を見つける
  
7) 世界について、よりホリスティック(包括的)である。超越者は人類やコスモス(宇宙)は一つであるという風に、より容易に、より柔軟に、より自然に考える

8) 精神間、対人間、文化間、そして国家間において自然とシナジー(相乗作用)する傾向がある、、、相乗作用は、自己中心と非自己中心という二分法を超える

9) より多く、より容易にエゴ(自我)、自己、アイデンティティを超える

10) 愛すべき人たちであり、、、より畏敬の念を起こさせる

11) 革新者、新しいものの発見者になりやすい、、、存在価値の明確なビジョンをもたらす

12 ) 健康な人よりもあまり「幸せ」ではないという漠然とした印象、、宇宙的な悲しみ、あるいは存在の哀しみ、、おそらくこれは、超越者たちがとても簡単に、とても鮮明に見ることができ、原理的にはとても簡単に達成可能な理想的な世界と、実際の世界の対比から来ている、、どんな超越者も、座って5分で全く現実的に実現可能な平和、兄弟愛、幸福のためのレシピを書くことができる

13) 彼らは容易に欠乏と存在の両方の領域に同時に住むことができる、、一人一人の人間のこの神聖さを、生きとし生けるものでさえも、また生きとし生けるものでない美しいものでさえも、超越者は一瞬たりとも忘れることができないほどに、その現実を容易かつ直接的に認識している

14) 超越者は知識の増加と神秘性と畏怖の増加の間に、通常の逆相関関係よりもむしろ正の相関関係を強く示している

15) 超越者は他の自己実現者よりも「変人」や「変わり者」を恐れていないはずで、それゆえにクリエーター(時々変人や変わり者に見える)の良い選別者になる可能性が高い

16) 必要悪を理解している感覚において「悪と和解」している、、悪に対するより大きな同情と、悪に対するアンビバレントではない不屈の戦いの両方を生み出す

17) 彼らは自分自身を、才能の担い手、超越者の道具、いわば大いなる叡智や技術、リーダーシップや効率性の一時的な管理人と見なす、、「トランスパーソナル」な自我の喪失

18) 有神論的または無神論的な意味での深遠な「宗教的」または「霊性的(スピリチュアル)」な経験をする傾向がある

19) 自我、自己、アイデンティティを超越して、自己実現を超えていく方が簡単だと感じている

20) より多くの終わりの体験(そのようなもの)

21) 超越者はよりタオイスト(道教)的である。、、存在認識は、すべてのものをより奇跡的に、より完璧に、あるべき姿のままに見せる

22) ポストアンビバレント、、、完全な心のこもった無制限の愛、受容、表現力

23) 金銭は豊かさと人格の成熟度が増すにつれてその重要性が着実に後退していく一方で、より高い形態の報酬やメタ報酬は着実にその重要性を増していく、、、自己実現している人の大部分は、とにかく仕事と遊びを融合させている、、、彼らの中には、とにかく趣味でやっているであろうこと、つまり本質的に満足できる仕事をしていることでお金をもらっている、、、超越者は至高体験や存在認知をより可能にする仕事を積極的に探している、、超越者は歴史を通して、自然にシンプルさを好み、贅沢、特権、名誉、所有を避ける

24) 超越者はシェルドンの外胚葉型であることが多いように見える


自己超越者の24の特徴の全文についてご興味のある方は、コチラでご覧下さい→マズローの欲求の階層説




 

2020年07月28日 19:00

不確実な人生で運を味方につけるには

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東京都の休業要請も、本日6月19日に全面解除となりました。

 

一見、日常生活が戻りつつあるようですが、マスクを付けながらの生活が続き、第二波への警戒があるなかでは、心の中のアラームが鳴り止むのはまだ先のことではないかと思います。

 

この状況では旅行や観光などは控えている方も多いのではないかと思いますし、そうした業界で働かされている方には先行きへの不安は拭えない状況が続いているのではないかと思います。

 

人生は予期できないことの連続ですが、それはキャリアにおいても同じことです。

 

旅行業界や観光業界のみならず、様々な業界においてこれから先のキャリアプランの変更を迫られている方もいるかもしれません。

 

けれど、こうした不測の事態、偶然の不運をネガティブに捉える必要はないと主張する研究者がいます。

 

スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ(John D. Krumboltz)教授です。

 

クランボルツ教授は、1999年にサンフランシスコシティカレッジのキャリアカウンセラーのKathleen E. Mitchellと、 カリフォルニア州立大学の助教授のAl S. Levinと共に、

 

計画的偶発性理論/プランドハプンスタンス理論(Planned Happenstance理論)を提唱し、キャリアにおける運や偶然が果たす役割を指摘し、むしろそれを味方につける重要性を指摘したのです。

 

今回のブログでは、このプランドハプンスタンス理論を紐解きながら、この先行きが見えない状況を味方につける考え方をご紹介したいと思います。

 

この考えは、現在のような状況でより良いキャリアを考える上でも重要なヒントをくれますが、不確実な人生において、運を味方につけて生きていくためにもとても役に立つ考えだと思います。

 

これまでのキャリアプランの考え

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キャリアプランは、年功序列や一つの会社で一生働き続けるということがそれほど当たり前では無くなってきた現代において「自分がどんな未来を理想としているのかを明確にして、そこに辿り着くための具体的な計画が必要」だという考え方に基づきます。

 

そして、この考えの根底には、「将来が(ある程度は)予測できる」という前提があります。

けれど、本当に将来は予測できるのでしょうか

私たちの人生は研究室のような無菌状態にあるのではなく、実は様々な不確定要素に満ちているというのが現実であるということを、私たちは忘れていたのではないでしょうか

 

第二次世界大戦の終戦から75年、日本では多くの大災害も経済的なショックも起こりましたが、世界全体がひっくり返ってしまうような出来事というものを経験して来ませんでした。

 

戦後続いてきた平和な世界においては、「将来を予測して、未来の目標とそこに辿り着くための具体的な計画を立てる」という方法は、効果的であったのだと思います。

 


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「平和ボケ」という言葉があるように、私たちは心の何処かで今ある日常はこのまま何も変わらず続いていくという幻想を抱いてしまっていたのではないかと思います。

 

キャリア支援の立場には、運や偶然などの不確実な要因の重要性に注目するものは以前から存在していました。けれど、それらはどちらかというと否定的な見方をされることが多かったのです。

 

一方で、コロナ以前から、IT技術の進化に伴う大きな社会の変化がやってくること、それに沿ったこれから先の未来の仕事環境の変化については言及されてきました。

 

おそらくそうした状況の変化も受けて、この数年で、これまでは否定的に紹介されることの多かったプランドハプンスタンス理論が、再評価されてきています。

 

プランドハプンスタンス理論とは

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「将来が予測できる」という前提とは反対の、「人生は偶然に支配されている」「キャリアはコントロール可能なものではない」という立場に立った上でキャリア支援を考えようとするのがプランドハプンスタンス理論です。

 

クランボルツ教授はこう言います。

 

人生の目標を決め、将来のキャリア設計を考え、自分の性格やタイプを分析したからといって、自分が望む仕事を見つけることができ、理想のライフスタイルを手に入れることができるとは限りません。

 

人生には、予測不可能なことのほうが多いし、あなたは遭遇する人々や出来事の影響を受け続けるのです。

 

その事実を認めた上で、こうしたコントロールできない、予期できない偶然の出来事、不運や幸運を積極的に活かしていこうとするところに、この理論の大きな特徴があります。

 

クランボルツ教授は、成功したビジネスパーソンの80%の方が、自分のキャリアにおいて「偶然の出来事」が果たした役割が大きかったことに言及したと指摘しています。

 

ただ、彼らはただ何もせずに、天から降ってきた幸運を享受した訳ではないのです。

こうした「偶然の出来事」によって成功した人々にはある共通した行動特性が見られたと言います。

 

そして、私たちが彼らと同じように偶然の出来事を味方につけて人生をより豊かなものにするには、5つのスキルを磨いていく必要があると言います。

その行動特性、5つのスキルとは次のものです。

1. 好奇心(Curiosity): 新しい学びの機会を模索する(exploring new learning opportunities)

2. 持続性(Persistence): たとえ失敗しても精一杯努力し続ける(exerting effort despite setbacks)

3. 柔軟性(Flexibility): 姿勢や状況を変えていく(changing attitudes and circumstances)

4. 楽観性(Optimism): 新しい機会には可能性があり達成できるものと考える(viewing new opportunities as possible and attainable)

5. 冒険心(RiskTaking): 結果がどうなる分からない状況でも恐れず行動する(taking action in the face of uncertain outcomes)

お気づきかも知れませんが、私たちは赤ん坊の時は、皆こうでした。

身の回りにあるもの全てに興味を持って、手当たり次第にそれを口の中に入れてみたりしていたのです。

何度立ち上がることに失敗しても、めげずにまた立ち上がろうとしていたのです。

もちろん、失敗を学んで、恐れることを学ぶことはサバイバルする上では重要なことですから、赤ん坊のように何も考えずにやみくもに手を出すように戻るという意味ではありません。

私たちは学んだから恐くて、恐いから躊躇うのです。

私たちは失敗=痛みだと学びました。

だとしたら、もう一度、「失敗」について違う視点から学び直す必要があるのかも知れません。
 

クラムボルツ教授は、失敗についてこう言います。

●失敗や間違いはよく起こることであり、当たり前のことであり、学びのあるものだということを認識しよう
●自分の失敗を活かそう
●他の人の失敗から学ぼう
●どんな意思決定にも偶然性が影響していることを理解しよう
●失敗に対して建設的に取り組もう
●前へ進もう

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つまり、失敗とは当たり前に起こる避けられないもので、そこから学んだり成長したりできるものだということ、失敗=学びだということを失敗を通して学んでいく必要があるのでは無いでしょうか。
 

こうしたことを踏まえて、クランボルツ教授は私たちにこう助言します。

* キャリアに影響を及ぼすような予期せぬ出来事は、正常であり、避けられないことであり、望ましいことであることを認めよう。

* 優柔不断な状態/決められない状態は、解決すべき問題ではなく、将来の予期せぬ出来事を利用できるようにするための計画的なオープンマインドの状態だと考えよう。

* 予定外の出来事を、新しい活動を試したり、新しい興味を持ったり、古い思い込みに挑戦したり、生涯学習を続ける機会として利用しよう。

* 将来、有益な予定外の出来事が起こる可能性を高めるための行動を開始しよう。

* キャリアを通した学習のための継続的なサポートを受けよう。

 

今ほど、プランドハプンスタンス理論を活用するのに絶好の機会はありません。

私たちの好奇心と、オープンマインドで新しいものを探っていくような感覚を大事に、この予測できない状況を進んでいきましょう。

2020年06月19日 19:00

75年間のハーバードの研究成果からみる「満たされた人生」の秘密

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コロナ禍がもたらしたロックダウンによって、世界中で家庭内暴力、DVの増加が問題になっています。イギリスでは、全国家庭内虐待ヘルプラインのサイトへのアクセスが、過去2週間で10倍に増加したことがBBCのニュースになりました。

 

日本は、そこまで厳しい外出規制はありませんでしたが、自粛生活の中で家族と過ごす時間が増えたことでコミュニケーションの問題を感じた方、ストレスを感じた方も多かったと思います。

 

また、一人で生活されている方は、そのことによる不安や孤独を感じたという声も聞こえてきました。

 

コロナ禍によって、私たちは、周囲の人との人間関係、関わり方を改めて見つめることになったのではないでしょうか。

 

そこで、今回のブログでは、人間関係を考えるヒントを、75年間という稀に見る長期の研究のなかで明らかにされた、幸せな人生の秘密から考えてみたいと思います。

 

 

ハーバード成人発達研究とは

この研究は、「史上最も長期に渡って成人を追跡した研究」です。研究が開始されたのは、何と第二次世界大戦よりも前の1938年です。そこから75年もの長期間にわたり、2つのグループの724人の「身体の健康」と「心の健康」の状態を追いかけ続けました。(このブログは数年前に行われた講演をベースに書きましたが、2020年現在は80年以上に渡る研究となっています)

 

研究の目的は、「幸福と健康の維持に本当に必要なものは何か」を明らかにすること。

 

対象となった2つのグループのうち、1つは456人のボストンで経済的に恵まれない環境で育った人たちで、もう1つは268人のハーバード大学を卒業した、いわゆるエリート達です。

 

つまり、調査の対象となった被験者たちは、様々な社会階層のひとが含まれているということです。また、経済的に困窮した状態から抜け出した人もいれば、病気になったり、様々な事情で逆の道を辿っていった人もいました。

 

研究者たちは、血液サンプルの分析、脳スキャンといった科学的な調査と、被験者のアンケートの回答、家庭訪問などの調査によって、彼らの仕事や家庭生活、健康状態を記録し続け、調査結果を分析し、その結果をまとめてきました。

 

 

幸福な人生のたった一つの重要な秘密 

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75年に渡る「史上最も長期に渡って成人を追跡した研究」の幸福と健康の維持に必要なものは何かという結論は、とてもシンプルです。それは、富でも、名声でも、必死に働くことでもありませんでした。

 

この研究の4代目の責任者である心理学者のロバート・ウォールディンガー教授は、講演の中でこう言っています。

 

 

"The clearest message that we get from this 75-year study is this: Good relationships keep us happier and healthier. Period."

 

75年間におよぶこの研究が明確に示しているポイントは、良い人間関係が私たちの幸福と健康を高めてくれるということです。これが結論です」

 

研究が示したことは、家族、友達、社会のコミュニティとつながっているほど、身体的な健康度が高く長生きで、幸福度も高かったということです。逆に、孤独は"toxic"(有害)であることが分かりました。

ただ、ウォールディンガー教授は指摘しています。

 

"And we know that you can be lonely in a crowd and you can be lonely in a marriage, so second big lesson that we learned is that it's not just the number of friends you have, and it's not whether or not you're in a committed relationship,”

 

「しかし群衆の中や、結婚生活の中でも孤独を感じることはあります。つまり、2つ目の我々が学んだ大きな学びは、大切なのは友人の数ではないということ、交際相手がいるかどうかでもないということです。」

 

では、何が重要なのでしょう。

 

"It's the quality of your close relationships that matters."

 

「大事なのは、身近にいる人たちとの人間関係の質なのです」

 

人間関係の質、とはどういうことでしょう。それは温かく、親密な関係性があるかどうかです。信頼し、安心して、互いに頼り合えると感じられるかどうか。


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ただ、ウォールディンガー教授は、それが簡単なことだと言っている訳ではありません。むしろ、それは昔から言われてきたことなのに皆がその価値を無視していると言います。

 

「親密で良い関係は、包括的に私たちに益となっているという教えは今に分かった事ではありませんね。何故そんな関係は築き難く、無視され易いのでしょう。誰もそうですが、私たちは手っ取り早く手に入れられる、生活を快適に維持してくれるものが大好きです。人間関係は複雑に込み入っています。家族や友達との関係をうまく維持して行くのは大変な仕事です。その地道な努力は地味で、その上その仕事は一生続くものです。終わりはありません。。75年間に渡る研究で、定年退職後一番幸福な人は仕事仲間に代わる新しい仲間を自ら進んで作った人達です。」

 

教授が指摘しているように、質の高い人間関係は、築くのは簡単ではなく手っ取り早くは手に入らないものです。地道で地味な努力を要するもので、ずっと維持していく必要があるものなのです。

 

人間関係は、まるで生き物のようです。そこにエネルギーを割いて、栄養を注がなければ枯れて、死んでいってしまいます。

 

最近のミレニアム世代に行われた調査では、80%の若者が人生の目的はお金持ちになることと回答し、50%の若者はもう一つの大きな目的は有名になることと回答したそうです。人生のゴールが、お金持ちになって、有名になることだと思っていれば、当然、そこにエネルギーも時間も使い、質の良い人間関係を築くことは後回しになってしまうでしょう。けれど、それでは幸せを手に入れることは出来ないというのが、この研究が教えてくれていることなのです。

 

「最近の調査での新世紀世代のように、この研究の参加者の多くは、彼らが青年期に入った時、名声や富や業績が良い生活をするには必要なものだと、本当に信じていましたが、75年もの間我々の研究で繰り返し繰り返し示されたのは、最も幸せに過ごして来た人は、人間関係に頼った人々だという事でした。それは家族、友達やコミュニティだったり様々です。」

では、そうした「良い人間関係」温かく親密な信頼関係を身近な人と築くにはどうした良いのでしょうか。  
 

良い人間関係を築くために

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周囲の人と良い人間関係を築きたいのに、相手を信頼して心を開けなかったり、攻撃してしまうこともあります。あなたと良い人間関係を築こうと誰かが近づいてきたとしても、どうやって親密な関係を築いて良いのか分からずにそれを遠ざけてしまったり、それを失うことを恐れて自分から離れてしまうこともあり得ます。

ハーバード成人発達研究の2004年までの責任者であったジョージ・バイラント教授は、「愛を遠ざけずに人生に対処する方法を見つけること」の重要性を強調しています。


それは自分の感情やストレスを適切に対処する方法を身につけていくことが大事だということです。また、そうするためのサポートを求めていくということでもあります。それはセラピストやカウンセラーかも知れませんし、自己成長グループや、社会的なサポートグループかも知れません。

多くの方が「親密な人間関係が築けない」「人が近づくと遠ざけてしまう」「人を信頼できない」と言ったテーマを持ってカウンセリングを開始します。

自分自身の心の傷やマインドセット、小さな頃に学んだ世界や人や自分自身に対するビリーフ(信念)が、人を信頼し、心を開き、人に頼ることを邪魔してしまうことがあるからです。そうしたトラウマやビリーフは浅いものであれば、人間関係のなかで癒されたり解消されることもありますが、深いものであれば、やはりセラピーやカウンセリングが必要だと思います。

また、そうした良い人間関係を築くには、それが可能な相手がどうかということも重要なポイントです。

一生懸命に良い関係を築こうとする家族や友人、パートナーが、様々な要因で人格的な障害を持っていたりすれば、その相手もセラピーなどを受けて変わるまでは難しいと言わざるを得ません。もし、相手にその準備が無いと感じたらその相手とは適切な距離を持って、あなたと良い関係を築くことができる相手を探す必要があるのです。

温かく、親密で、互いに信頼できる人間関係を築くには、完璧な人間である必要はもちろんありません。けれど、自分も相手もある程度、オープンで内省的であるということが大事ではないかと思います。

オープンであるとは、良いものも悪いものも自分の感情に対して開かれていることです。それを受け止めて適切な表現をすることができることです。自分の弱さやダメなところを必死で隠すのではなく、リラックスして自分らしく居られることです。

内省できるとは、自分を振り返る心のスペースがあることです。完璧じゃない私たちが、相手を傷つけたり至らないところがあれば、相手の立場になってその痛みを知り、自分の振る舞いを反省して成長していけることです。

そうした地道な努力は、手っ取り早くも簡単でもありませんが、私たちを本当の「満たされた人生」に導いてくれるものだということを、この研究は教えてくれています。

2020年06月11日 19:00

天岩戸神話とコロナ明け

天照大御神

枝年昌 / Public domain

日本では、ようやく非常事態宣言が解除されました。ホッとされている方も多いのではないかと思います。

 

けれど、いま、精神科医や心理士など、多くのメンタルヘルスに関わる人たちが気にかけていることがあります。

 

それは、「荷下ろしうつ」と呼ばれるものです。

 

荷下ろしうつとは、一生懸命に頑張った後に、ドッと疲れが出ることで生じる抑うつ症状のことです。

 

通常、頑張っている最中というのは、必死なものですから疲労に気づきにくくなります。

 

また、ストレス反応には①警告期、②抵抗期、③疲はい期、という三段階があって、ストレスを感じてから直後は様々な身体的・精神的なストレス反応がありますが、少し経つと一時的に抵抗力が強まって、何事もなかったかのように過ごせてしまいます。けれど、その状態が長期化すると、一気にダメージが押し寄せてくるのです。

 

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緊急事態宣言発令中は、皆さん、意識的、無意識的に強い緊張を感じていたことと思います。

 

気にしなければいけないこと、やらなければいけないことが急に増えて限界を感じながらも、自分がやるしかないと走り続けた方も多かったことと思います。

 

睡眠不足や体のだるさや痛みをぼんやりと感じながらも、それどころではないと頑張って来られたと思います。

 

そうして抱えてきた疲労が、気が緩むことで一気に押し寄せて来るのが今の時期です。

 

 

けれど、どうぞこれをネガティブに捉えないでください。これは私たちの命を守る、とても大事なサインなのです。

 

何のサインかというと、「あなたは十分頑張りました」というサインであり、「あなたには休息、セルフケアが必要」というサインです。

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もしも睡眠時間が確保できていなかった方は、まずは眠りましょう

 

神経が高ぶってしまって眠れない場合には、市販の睡眠導入剤などの助けを借りる方法もありますし、メラトニンという睡眠ホルモンが夜にしっかりと放出されるように、朝の光を浴びるようにして、夕方以降は家の中の明かりを少し薄暗くしておくのも大事です。

眠る前に、濡れたタオルをレンジで温めてホットタオルを作って目の周りを温めることで副交感神経が優位になりリラックス出来ますし、皮膚温が上がることで、カラダの熱の放熱が促されて眠気も感じやすくなります。

 

 

また、カラダの筋肉の緊張をほぐしていくために出来ることもやってみてください。

 

筋肉にはフィードバックシステムがあり、筋肉に力が入って緊張していると、自律神経に影響を与えます。

 

ですから、出来るだけ筋肉の緊張をゆるめていくことが重要です。

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首や肩の緊張奥歯の噛み締め腕の緊張お腹の緊張など、ストレスを感じると力が入りやすい部位を中心にゆるめていきます。

 

入浴剤などを入れてぬるめのお風呂に浸かるのも良いですし、先ほど同様、濡れたタオルをレンジで温めたホットタオルで首や肩を温めることで血流を良くする方法もあります。

ストレッチで伸ばしたり、マッサージなどでもみほぐすのも良いです。

 

そして、忘れてはいけないのが、心の緊張を解くこと

 

そのヒントを探るために、日本の神話である天岩戸神話を見てみたいと思います。

 

 

天岩戸神話

Uzume
Public domain
 

古事記には、弟である速須佐之男命(はやすさのおのみこと)が乱暴を働いたことを見て畏れた天照大御神(あまてらすおおみかみ)が、天岩戸に引き篭もってしまうことで世界が闇に包まれてしまう、という神話が出てきます。

 

太陽神である天照大御神が隠れてしまったことで、天上世界である高天原(たかあまのはら)は暗黒となり、地上の葦原中国(あしはらのなかつくに)も、真っ暗闇になってしまいます。

 

夜ばかりが続き、神々の騒がしい声がまるで五月の蝿のようにみち広がり、万物の災いがいっせいに起こります。

 

困った八百万の神々は高天原の河原に集い、どうしたものかと相談し、様々な儀式を行うことにしました。

 

と、勾玉で出来た一連の数珠を作らせ、榊(さかき)の木の枝に、その鏡と数珠と祭具を垂らして下げ立派な捧げものとして奉り、祝詞をとなえます。

 

天手力男神(あめのたぢからおのかみ)という怪力の神さまが岩戸のそばに隠れて立ち、

 

天宇受売命(あめのうずめのみこと)は、桶をふせてその上に乗り、神がかったように胸をあらわにし、裳という腰から下の衣服を陰部まで押し下げて踊ります。

 

するとそれを見た八百万の神々は、高天原が鳴り轟くように一斉に笑いました。

 

岩戸の外の盛り上がりを不思議に思った天照大御神は、思わず岩戸を少し開けてしまいます。そして天宇受売命に、「なぜ天宇受売命は舞い遊び、八百万の神々は笑っているのか」と問います。

 

天宇受売命は、「あなた様よりも貴い神がいらっしゃっているので、喜び、笑い舞い遊んでおります」と答えると、別の神様が先ほどの鏡を差し出します。

 

鏡に写った自分の姿をその貴い神だと思った天照大御神は、ますます不思議に思い、そろそろと岩戸の戸口から出てきたところを、そばに隠れていた天手力男神がその手を取って引き出してしまいます。

 

こうして無事に世界は、光を取り戻したのです。

 

笑い、好奇心、太陽の光

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さて、「笑う」は、「割る」に通じるものです。

 

岩戸を破り、闇を割ることが出来たのは、笑いです。

 

この天岩戸神話と共通したモチーフは、ギリシャ神話にも見られます。

 

ペルセポネーを冥界の王ハーデースにさらわれた豊穣の女神であるデメテルは、娘を探してさまよった後に、エレウシスにある井戸のそばに座り込んでしまいます。

 

誰もデメテルを慰めることが出来ずにいるなか、性器を象徴する女神と言われるバウボがきて、卑猥なダンスを踊ると、デメテルがつい笑ってしまうのです。

 

神話学者のキャンベルは、これを「卑猥さやわいせつ性が、これまでとは別の視野を与える」と表現しています。さらに、「こうしてあなたは、でき上がった人間の領域から離れ、創生や再創造の自然力学のなかで、悲嘆という束縛から解放されるのです」と言います。

つまり卑猥さやわいせつ性というものには、自己超越させる力があると言うのです。

自己超越とは、時間や空間に制約された生活の現象面を超えた深遠なる存在の本質への超越です。


笑いにもまた、そうした自己超越の力があります。

 

さて、話しが横道にそれてしまいましたが、ここでコロナ明けに話しを戻しましょう。

 

長いこと自粛して篭っていた私たちには、今こそ「笑い」の力が必要ではないかと感じます。

私たちも、この疲労感や抑うつ気分を、闇を「割る」ために、たくさん笑いましょう

もちろん、日常のなかで面白くて、楽しくて笑ってしまう場面があれば、それは素晴らしいことですが、

「笑う時間」を自分で作ることも出来ます。

お笑い番組、落語、コメディ映画などを観る時間を作って、たくさん笑ってください。
 

そして、天照大御神が鏡で自分の光を見たように私たちにも太陽光が必要です。

体内時計をリセットして自律神経を整えるためには、光がもっとも大事な要素です。

晴れて太陽が降り注いでいる日の野外は1万ルクスほどの光量があるのに対して、室内の蛍光灯など光量はその20分の1から10分の1程度しかありません。午前中に出来るだけ外で太陽光を浴びるようにしてお過ごしください。


もう一つは好奇心です。
 

天照大御神は、自分の好奇心によって外に出てきたのです。
 

外の世界の、面白そうなこと、好奇心をそそられることに意識を向けてみてください。

 

2020年05月31日 13:14

シャルトルのラビリンス

大聖堂の天井画

The Labyrinth of Cathédrale Notre-Dame de Chartres
 

パリのノートルダムが初期ゴシック建築の傑作なら、クラシカル・ゴシックの最高傑作はフランス中部にある都市シャルトルのノートルダム大聖堂です。
 
11世紀初めにロマネスク様式で建てられたシャルトルのノートルダム大聖堂は、12世紀末に一度火災によって焼け落ち、ゴシック様式で再建されたのです。
 
中世では、巡礼者のために床にラビリンス(迷宮)が描かれる大聖堂が現れましたが、このシャルトルの大聖堂の床にも、ラビリンスがあります。
 
ラビリンスは迷路と間違えられやすいのですが、実は全く別の構造です。
 
ラビリンスと聞いて、クレタ島クノッソス神殿のラビリンスを思い出す方もいらっしゃるかも知れませんが、
 
まさにこのクレタ島のラビリンスの紋章であるLabrys(両刃の斧)がLabyrinth(ラビリンス)の語源であったという説もあります。
 
クレタ島にあるラビリンスは、いわゆる迷路のような通路が入り組んでいるような建造物ではなく、分岐のない一本道がグルグルと続いているのですが、
 
これこそが、ラビンリスの特徴です。
 
ラビリンスでの通路は決して交差せず、道に選択肢はありません。
 
そして、グルグルと一本道を辿っていくと、何度も中心の近くを通りすぎることになります。
 
つまり、幾度もついに中心に辿り着いたかと思いきや、まだまだ道のりは続いていくのです。
 
すると一本道なのに、自分がまるでどこかで道を間違えたかのような不安を感じはじめ、何度も何度も中心に辿りついたかと思ったらやっぱり違ったとがっかりすることになります。
 
けれどその道は実際に中心へと通じていて、必ず中心に辿りつけるのです。

中心に辿り着く以外の選択肢はないのです。
 
そしてその一本道を辿っていくことで、その空間内のすべてを通る、すべてを体験するような設計になっているのです。
 

アリアドネの糸

 
何か複雑な物事を解決する際に、「糸口を探す」「手がかりを探す」と言いますが、
 
英語では「糸口」「手がかり」は、clueです。
 
もともとclueは糸玉、つまり糸をグルグルと巻いてまるめたボールを意味していました。
 
そして、この糸玉は、アリアドネの糸玉のことです。

アリアドネとはミノス王の娘です。
 
クレタ島のミノス王は、自分の后パシパエが美しい白い雄牛と交わり産んだ、牛の頭を持つミノタウロスを、
 
名工ダイダロスに建造させたラビリンスの奥深くに閉じ込めます。
 
そして、成長し凶暴になったミノタウロスの食料のために、9年毎に7人の少年と少女を生け贄として捧げていましたが、
 
あるときアテナイの英雄テーセウスがこの生け贄に自ら志願し、クレタ島にやってきます。
 
テーセウスに恋したミノス王の娘アリアドネは、彼にラビリンスから脱出するための糸玉を渡します。
 
こうしてテーセウスは、ラビリンスでミノタウロスを倒し、アリアドネの糸を辿って無事にラビリンスから脱出することに成功するのです。
 

シャルトルのラビリンス

 
シャルトルのノートルダムのラビリンスは、11の同心円からなり、その中心には6枚の花弁を持つバラが描かれています。
 
バラは、大いなる自己、セルフの象徴です。
 
つまり、ラビリンスは、真の自己への回帰を表現しているのです。
 
中世ヨーロッパでは、個人としての巡礼者が、世界・宇宙の創造主であり中心である神との合一を目指す、瞑想の一つの方法としてこのラビリンスを用いていました。
 
ラビリンスは人生の道のりにも似ているし、何かの物事を行ううえでのプロセスにも似ているのではないでしょうか。
 
必ず中心に辿り着くことを信じたいけれど、
 
幾度も間違えたのではないかという不安にふるえ、
 
もう辿り着けないかも知れないと恐怖に戦きながら、
 
それでも微かなアリアドネの糸を辿って進んでいく。
 
カウンセリングも、そんなプロセスにどこか似ています。

セッションのなかに立ち現れてくるアリアドネの糸を一緒に辿りながら進んでいきます。

クライエントの脳裏には、何度も、何のためにこんなことをしているのだろうと疑問がよぎります。

もう中心に辿り着いたかと思うと、それはまだ途中でしかないことが分かり、がっかりしてしまいます。
 
カウンセリングでは、途中で休憩してもいいし、どこまで進みたいかは自分で決めてよいことだと思います。
 
必ず中心に辿り着かなければならないこともないでしょうし、
 
自分で進む意図も無いのに進んでいる方もいるでしょう。
 
それでも、人生のラビリンスでは、今日も、呼吸をし続けることを選んでいるのであれば、
 
あなたはラビリンスを進んでいるのだと私は思います。
 
そして自分で意図しなくても呼吸をし続けられているのであれば、
 
それは大いなる自己が、あなたがラビリンスを進むのを後押ししているのではないかと思います。
 
 
2019年05月03日 18:02

アルテミス・ウーマン

鹿

神話の役割

 

元型心理学の創始者であるジェイムス・ヒルマンは、

 

神話について次のように言っています。

 

「神話の研究は、出来事がそれの神話的な背景に照らして認識されることを可能にする。

 

しかしながら、それよりも重要なことは、神話の研究によって、

 

魂の生活を神話的に知覚し経験することが可能になることである。」

 

そのクライエントさんは、ドイツ人の女性でした。

 

(ご本人の承諾を得て、個人情報は伏せた上で書いています)

 

彼女は、幼少期からとてもボーイッシュで、自立心旺盛な子どもでした。

 

男性に対して強い競争心怒りを持っていて、

 

女性を見下したり、単なる性的な存在として扱うような男性には、

 

烈火のごとく怒りをあらわしていました。

 

自分の人生における目標が明確で、

 

その目標に向けて次々に行動を起こしていきます。

 

物事を計画し、コントロールしないといられないところもありました。

 

彼女の悩みは、男性含め人と親密な関係を持てないということでした。

 

近くにいる人ほど、冷たく、嫌な対応をしてしまうのでした。

 

アルテミスとアクタイオーン

 

そんな彼女の魂の生活の背後には、処女神アルテミスがいました。

 

アルテミスは、ギリシャ神話に登場する処女神で、

 

狩猟を司る女神でもありますから、

 

狙った獲物は逃さず仕留めていきます。

 

森のなかの泉で水浴しているところを、

 

たまたま通りかかったアクタイオーンに見られたアルテミスは怒り狂い、

 

アクタイオーンを鹿の姿に変えてしまい、

 

彼が連れていた犬に襲わせて殺してしまいます。

 

そんなアルテミスと同様に、

 

アルテミス・ウーマンもまた、

 

自分の弱い面、素顔を見られることを恐れ

 

彼女のこころの柔らかいところに踏み込んで来る者には、

 

怒りという形で追いやらずにはいられませんでした。

 

そのクライエントさんは、長い時間をかけて

 

彼女のなかにいる「内なる少女」に出会っていきました。

 

その少女こそ、アルテミスが守っていた存在です。

 

アルテミス・ウーマンは、

 

自分もまた人を必要としていることを認識することで、

 

変わっていきます。

 

2019年01月29日 17:28

プライドと自己愛

水面に映る木々

プライドが邪魔をする

 

前回のブログでは、「非合理的信念」が私たちを苦しめているという

 

お話しをしました。

 

「自分はいつも必ず上手くやらなければならない、そうでなければ、自分はダメ人間だ!!」

 

「人はいつも必ず自分に優しく、平等に扱い、親切で、礼儀正しくなければならない、そうでなければ、みんなろくでなし」

 

「人生はいつも必ず自分の思い通りになるべきで、そうでないなら、耐えられない」

 

と思っている方が目の前にいたら、

 

少しプライドが高いと感じる方もいるかも知れません。

 

ちょっとした自分のミスを許せなかったり、

 

自分に少しでも失礼な態度を取る人を許せなかったり、

 

自分にとって都合の悪いことが起きることを受け容れないのは、

 

プライドが高いようにも感じてしまいますよね。

 

自分のプライドが邪魔して自由に行動できない、

 

自分のプライドゆえに自分にも他人にも厳しくなってしまうという経験は、

 

誰にでもあるのではないかと思います。

 

けれど高すぎるプライドの背景には、

 

とても苦しい「自己愛の傷つき」が隠れていることがあります。

 

自己愛とナルキッソス

 

「自己愛」は、ギリシャ神話のナルキッソスに由来する、

 

英語のNarcissism(ナルシシズム)を日本語に訳したものです。

 

美しい青年ナルキッソスに恋をしたエコーは、

 

ゼウスの怒りをかったために、自分からは話しをすることが出来ず、

 

相手の言葉を繰り返すことしか出来ません。

 

自分からは話しかけられないエコーを、

 

ナルキッソスは冷たくあしらいます。

 

傷ついたエコーの恨みを聞き入れた復讐の女神ネメシスによって、

 

ナルキッソスは水面に映る自分自身に、

 

決して叶うことのない恋をしてしまいます。

 

そんなナルキッソスに由来するナルシシズムは、

 

「自分自身に対する関心の集中」の現れです。

 

健全な自己愛と、不健康な自己愛

 

ただ、この「自分自身に対する関心」には、二つの種類があります。

 

一つは、健全な「本来の自分自身に対する関心」で、

 

自分が何をどう考え、感じているのかといった関心で、

 

内省を可能にするものです。

 

またこうした健全な自分自身にたいする関心は、

 

Self-love(セルフ・ラブ)自尊心といった

 

健全に自分を愛することができることの基礎にもなります。

 

一方で、「他人がもつ自分に対する評価への関心」があります。

 

これは、本来の自分自身というよりも、

 

「他者に映し出されるイメージとしての自分」に対するこだわりです。

 

この他者が持っている自分のイメージや評価に関心が集中してしまうと、

 

本来の自分からはどんどん疎外されていき、

 

自分が本当はどんな風に思っているのか、

 

感じているのか分からなくなってしまいます。

 

また他者による自己評価は、

 

自分ではコントロールできないものですから、

 

不安がなくなることはありません。

 

こんな風に他人からの評価に依存してしまうようになるのは、

 

やはり小さい頃の苦しい体験があります。

 

ナルシシズムの方は、

 

ナルシシズムの苦しみをもった親が背後にいることが多いのです。

 

自分に感心を向けてもらえないエコーが、

 

自分から、自分の話しをすることができなかったように、

 

ナルシシストの前では、

 

その人は存在することが出来ないのです。

 

ナルシシストの親の前では、

 

本来の自分自身に関心を持ち、

 

健全な自己愛を育てることは難しくなってしまいます。

 

すると自分の価値を他者からの評価に依存せざるを得ないのです。

 

多くのクライエントさんは、

 

子どもの頃に自然に持つ

 

「ちゃんと自分を見て欲しい」

 

「ちゃんと自分の話しを聴いて欲しい」

 

という自然な欲求が満たされなかった辛さを感じたくないために、

 

その欲求を自分が持っていることを

 

否定してしまっていることが少なくありません。

 

だからこそ、その否定を取って、

 

自分のなかにあるそうした自然な欲求を

 

認められるようになることは、

 

カウンセリングにおける一つの課題となります。

2019年01月25日 06:28

世界はこうあるべきだ!!の罠

考える

アルバート・エリスとイラショナルビリーフ

 

前回に引き続き、「認知」について考えてみたいと思います。

 

現在の「認知行動療法」の基礎をつくった臨床心理学者の一人に、

 

アルバート・エリスがいます。

 

アルバート・エリスは、アメリカの臨床家で、

 

Rational Therapy(論理療法)を提唱しました。

 

前回、私たちの頭のなかの「考え」が、

 

私たちを不安にさせたり、焦らせたり、苦しめているという

 

話しをしましたが、

 

エリスの面白いところは、

 

どんな種類の「考え」が私たちを追い込むのかを

 

明らかにしたことです。

 

エリスは、Irrational Belief (イラショナル・ビリーフ)

 

つまり「非合理的信念」が、私たちを苦しめるのだと言います。

 

3つの「絶対的要求」

 

その中には、「絶対的要求」というものがあります。

 

この「絶対的要求」は3つのものに向けられます。

 

一つ目が、「自分に向けられる絶対的要求」です。

 

例えば、「自分はいつも上手くやらなければならない」というものです。

 

ちょっとしたミスで落ち込んでしまう人が、

 

どんな風に考えて落ち込んでしまうのかを探っていくと、

 

そんな「要求」があり、

 

そこから派生して「そうでなければ、自分はダメ人間だ!!」

 

「そうでなければ、自分には価値がない」と、

 

信じているのです。

 

こうした信念は、その人を落ち込ませ

 

罪悪感恥の気持ちを感じさせてしまいます。

 

これはとても苦しいですよね。

 

二つ目は、「他人に対する要求」があります。

 

例えば、「人はいつも自分に優しく、平等に扱い、親切で、礼儀正しくなければならない」

 

といったものがあります。

 

この要求があると、「そうでなければ、みんなろくでなし!」と、

 

人に対する怒りとなって現れます。

 

最後の3つ目は、「世界に対する要求」です。

 

例えば、「人生は自分の思い通りになるべきだ」といったものがあります。

 

そして、「そうでないなら、耐えられない」

 

「そうでないなら、この世の終わりだ」といった信念が

 

派生して生じてしまいます。

 

こうして文章として読んでみると、

 

自分はそんな極端なことを考えてはいないと思われる方も、

 

何か落ち込んでしまったり、

 

恥ずかしくなったり、

 

誰かに対して怒りを感じたり、

 

人生にたいして絶望を感じているときには、

 

是非、あたまの中でどんなことを考えているのか、

 

紙に書き出してみてください。

 

そして、その考えに「絶対的要求」が隠れていないか、

 

そこから非合理的な信念が生じていないかチェックしてみてくださいね。

2019年01月21日 23:07

現実をありのままに受け止める

混ざったインク

現実をみることの難しさ

 

前回のブログでは、

 

パニックにならないために心を落ち着ける方法として、

 

ヴィパッサナー瞑想について触れました。

 

そして、「現実をありのままに見る」ことの重要性についても。

 

でも、「現実をありのままに見る」って、

 

実はとっても難しいですよね。

 

では、なぜ、私たちには「現実をありのままに見る」ことが

 

難しいのでしょうか。

 

それは、私たちが物事を認識するときには、

 

フィルターを通して認識しているからです。

 

よく使われる例えは、

 

私たちはみな世界を見るために「色メガネ」をかけているけれど、

 

自分がメガネをかけていることにも気付いていないし、

 

それがどんなメガネなのかもよく知らない、というものです。

 

認知とは

 

心理学では、これを「認知」と呼びます。

 

心理学における「認知」とは、

 

ひとが外の世界にある対象を知覚し、

 

それがいったい何であるのかを「判断」したり、

 

「解釈」したりするプロセスのことを指します。

 

そして、その「判断」や「解釈」は、

 

その人の経験や知識に基づいて行われます。

 

例えば、人との関係で傷ついた経験がある方は、

 

知人に街ですれ違って挨拶をして返されなかったら、

 

「無視された」と悲しくなったり、

 

「何か気に触ることをしてしまったのかも」と不安になって、

 

次にその人に会っても距離を取ってしまうかも知れません。

 

あるいは、どこか自分に自信が持てずにいるかたが、

 

企画を提案して却下されたときには、

 

「自分には才能がない」と落ち込んでしまったり、

 

「自分はあの上司に嫌われているに違いない」と怖くなって、

 

次からは企画をたてることを止めてしまうかも知れません。

 

事実の仕分け作業

 

これを読んでいる方は、もう気付かれたと思いますが、

 

「無視された」も「自分には才能が無い」も、

 

「気に触ることをしてしまった」も、

 

「上司に嫌われているに違いない」も

 

すべて「事実」ではなく、「解釈」であり「判断」ですよね。

 

もっと言うと、それは単なる「考え」です。

 

けれど、この「考え」がひとを悲しませたり、落ち込ませたり、

 

不安にさせたり恐怖を感じさせています。

 

さらには人から遠ざかり、

 

もう企画は出さない、という「行動」につながっています。

 

こんな風に事実、考え、感情や行動は混ざり合って絡まりあってしまっています。

 

そこで、認知行動療法では

 

「事実」と「考え」を分けることを練習します。

 

上記の例でいえば、

 

「知人に街ですれ違い挨拶をしたら返ってこなかった」

 

「提案した企画が通らなかった」

 

というのが、事実ですよね。

 

認知行動療法では、この先がありますが、

 

まずはこの「事実と考えの仕分け作業」が出来るようになることは、

 

とても重要です。

 

是非、次に何か不安になったり、

 

怖くなったり、落ち込んだときには、

 

「事実」は何なのかを探して、

 

「ありのままに事実を見る」ことを意識してみてください。

2019年01月16日 21:53

カウンセリングって何するところ?②

緑のトンネル

前回、こころの変容のための「容器」としてのカウンセリングのお話しをしました。

 

そして、「色々な感情や考えが湧いてきても、それを取りあえず脇において日常生活を送ることが出来るのはその人の強さ」と書きました。

 

カウンセリングで体験されることの一つに、この「内なるスペースを作ること」があります。

 

この内なるスペースがないと、日常生活で起こる出来事一つ一つに必要以上に反応してしまったり、自分のなかに湧いてくる一つ一つの感情に圧倒されてしまう感じがしたり、目の前のことを楽しんだり集中できないというような状態になりがちです。

 

認知心理学に、ワーキングメモリ(作業記憶)という言葉がありますが、

 

これは、脳の前頭葉の働きを指す言葉で、記憶から引き出したその時々に必要な情報を一時的に置いておき、それらを同時に処理する能力のことを言います。

 

その名のとおり、作業をするための領域のことなので、作業をするのに必要な道具やモノを置いておく作業机にたとえられます。

 

ワーキングメモリは鍛えられるかどうか、というような議論もありますが、この作業机に同時に載せておくことが出来る情報の量は、だいたい7つ前後と決まっていると言われています。ですので、ワーキングメモリがきちんと働いているということは、この作業机がいつも整理され、不要なものはどんどん手放していけているということを意味します。

 

こころの内なるスペースについても、同様のことが言えます。

 

前回、「未完了の仕事」について触れましたが、苦しくて無視してしまったり、辛くて目を向けられなかったり、自分でもそれを理解することができないためにモヤモヤしたままになってしまった色々な想いは、「未完了の仕事」としてこころのどこかに置きっぱなしになって、私たちのこころのスペースを占領していることがあります。

 

そうした「未完了の仕事」をしっかりプロセスして手放していくことで、こころにスペースが生まれます。

 

過去から持ち越してきた沢山のこころの荷物を整理して、こころの中の風通しをよくすると、精神的な余裕や遊びが生まれます。

 

また、このこころの内なるスペースがあると、日常生活での大変な出来事が、自己成長の機会にもなり得ます。

 

生きている限り、ストレスはなくなりませんし、新しい問題が次から次へと身に降り掛かってきますよね。ワーキングメモリと同様に、次から次へと入ってくるものを処理して、手放していかなければなりません。

 

こころに内なるスペースがあることで、周囲の人や出来事に振り回され、自分の気持ちに振り回されるのではなく、自分はいまどう感じているのか、それは自分にとって何を意味するのか、自分はどうしたいのか、といったことを“reflect”(熟考)することができます。このリフレクションこそが、こころの成長には欠かせないものではないかと思います。

 

自分の人生を生きるために必要なスキルでありながら、なかなか機会のないこころの整理とその仕方を学べるのがカウンセリングでもあります。

 

ただ、これらはあくまでもカウンセリングで多くの方が体験されることの一つに過ぎませんし、必ずしも同じ体験になるとは限りません。

 

また、カウンセリングだけがこうした体験の場ではないとも思いますが、ご自分のこころに関心を持つ方には、ご自分に合ったカウンセリングでこころのスペース作りを体験してもらえたらと思っています。

2018年12月12日 06:00

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