内なるリズムとともに生きる②ー宇宙のリズム
内なる宇宙
今年も1年が終わろうとしています。
1年が終わるということは、誰もが知っているように
地球が365日をかけて太陽の周りを回って、戻ってきたということです。
月の満ち欠けは、月が地球の周りを29.5日かけて回ることによって、
太陽からの光の反射の仕方が変わることによって生じています。
この月の満ち欠けは、潮の満ち引きに影響をあたえ、
植物の中の水分や養分の移動にも影響をあたえています。
そして、私たち人間の気分やホルモンバランス、
生理のリズムやそれに伴う体内の環境なども
影響を受けていると言われています。
では私たちがそれと知らずに影響を受けているのは、
太陽や月だけなのでしょうか。
ユニバースとコスモス
冬の澄んだ美しい夜空を見上げると、
満天の星々が頭上に輝き、
私たちの地球は無数の星たち、
惑星たちと共にあることに気付きます。
かつてこの宇宙は、
ガスや金属、岩石などの塊に過ぎない惑星と星々、
物質とエネルギー、時間と空間からなり
自然科学の法則によって支配される“Universe”ユニバースではなく、
惑星たちが感情や知性、コミュニケーションや芸術、
美や愛などを司り、
人格のようなものさえもちながら、
宇宙全体が秩序と調和に満ちている“Cosmos”コスモスであった時代がありました。
もともと“Cosmos”という言葉は、
「秩序」「良い秩序」を意味する古代ギリシャ語の”κόσμος”に語源を持ち、
古代ギリシャの数学者であり哲学者のピタゴラスによって、
紀元前6世紀に初めて「宇宙」の意味として使われたと言われています。
天才的な数学者でもあったピタゴラスの宇宙論(コスモロジー)は、
宇宙は数学的な調和に満ち、
その根本は「天球の音楽」にあると考えました。
ルネッサンスのコスモロジーとフィチーノ
この天球の音楽が鳴り響くソウルフルで豊かなコスモロジーを
西洋社会に取り戻し、イタリアルネッサンスを牽引したのが、
マルシリオ・フィチーノという哲学者であり、医師、司祭です。
フィチーノは、コジモ・デ・メディチをパトロンに持ち、
ギリシャ語だったプラトン全集をラテン語に翻訳し、
プラトン哲学を西洋に再興させ、
ルネッサンスの新プラトン主義興隆のきっかけを作ります。
フィチーノはまた、「魂の医師」とも呼ばれていました。
このフィチーノが書き、何度も重版された当時のベストセラーに、
“De Vita libri tres”(『三重の生について』)という3巻からなる、
彼と同じような学者の健康維持法と長寿論について書いた、
とても実践的な本があります。
この本の3巻目は、いかにして天体のリズムと調和し、
そこからの恩恵を得るかについて書かれています。
今を生きる私たちにとってのコスモロジーと内なる宇宙
ピタゴラスやプラトン、フィチーノやルネッサンスの豊かなコスモロジーから、
私たちは何を得ることが出来るのでしょうか。
科学的な視点を得て、
21世紀を生きる私たちは、
こうした宇宙論を字義通りにそのまま「信じる」ことは出来ません。
では現代の科学的宇宙論を大事にしつつ、
プラトンやフィチーノのコスモロジーから恩恵を得る方法はないのでしょうか。
それは、ユングやヒルマンが考えていたように、
こうしたコスモロジーの惑星や星たちについてのイメージを、
魂の次元のシンボル、つまり元型的イメージとして扱い、
想像力を介して深めていくという方法です。
そのとき、私たちの頭上に輝く天体は、
冷たい金属やガスの塊ではなく、
魂の深奥を映し出す豊かなコスモスとなります。
1年の終わりに星空を見上げ、
そこに映し出されているものを想像し、
ご自分の内なる宇宙を感じてみてはいかがでしょうか。