カウンセリングって何するところ?
カウンセリングにおける「見守り」と「抱えられ」体験
カウンセリングって、何をするところなのでしょう。
もちろん、これには色々な視点と立場によって違った返答があるでしょうし、カウンセリングにおけるステージによっても、また複数ある要素のどの部分にフォーカスするのかによっても違ってきます。
なので、何が正解ということはないのですが、自分自身のカウンセリング体験とカウンセラーとしての体験から私が一番しっくり来るのは、カウンセリングとは心の変容のための「容器」である、というイメージです。
カウンセラーの温かで価値判断の無い関心と見守りが、安全で守られた時間と空間を作り出し、そうした安全な容器のなかにしっかり抱えられているという感覚は、なかなか他では味わえない独特の感覚です。
(実際にカウンセリングの空間をどう感じ、カウンセラーの視線を「暖かく・価値判断が無い」と感じるか、「冷たく・批判的」に感じるかというのは、クライエントさんの背景やカウンセラーとの相性によっても違ってくるので、そう感じるのが普通でそう感じないのはダメということではありません。
以前のブログで書いたように、その空間をどう感じ、カウンセラーとの関係をどう体験しているか、ということそのものが、話し合っていけるととても有意義な大事なカウセリングのテーマでもあります。)
こうした「見守り」と「抱えられる」という体験だけでも、それが日常で得られていない方にとっては十分に治療的な体験となることもあります。
更に、こうした「容器」があることで何が違ってくるかというと、日常生活のなかでは流れていってしまう私たちのなかに生じる考えや感情を深めるための時間がもてるということです。
人間関係での傷つきや怒り、何か引っかかる感じがあったり、なにかモヤモヤするけれどそうした気持ちをちゃんと見る時間もないし、とりあえず無視して毎日を送る。
辛いことや悲しい別れ・出来事があったけれど、その気持ちを見てしまうと生活できないから、とりあえず心の片隅に押しやっておく。
現在の生活にどこか満足できないし、自分の深いところにある欲求や情熱、願いがあるのは感じているけれど、それを掘り下げるのは怖いから気付かないふりをする。
自分にちゃんと向き合いたいと思っていらっしゃる方でも、忙しい日常生活ではそんなスペースも時間も無いのが普通ではないかと思います。
色々な感情や考えが湧いてきても、それを取りあえず脇において日常生活を送ることが出来るのはその人の強さですし、生きて行くうえで必要なスキルでもあると思います。全ての感情や考えを掘り下げないとならないわけでも無いと思います。
けれど、中にはその時々でちゃんと表現する必要があったり、自分で認識してあげる必要のある気持ちや考えというのがあります。
カウンセリングという非日常の安全な「容器」があることで、そうしたものに向き合う時間と空間が持てます。
未完了の仕事をする
逆に、そうした感情に向き合うことが出来ないと、流したつもりでもまるで心にしこりのように残ってしまうこともあれば、よりよい人間関係を築く機会や自己成長・自己実現につながる機会を逃してしまうこともあります。そんなやり残してしまった「仕事」のことを、カウンセリングでは“Unfinished work”「終わっていない仕事」「未完了の仕事」といいます。
そうした自分でも気付いていない「未完了」のワークをするのもカウンセリングの一つの目的です。それをするためには、冷えてしまった感情、しこりのように固まってしまった思いを、もう一度「温め」、「柔らかく」するための容れものが必要なのです。
50分から1時間のあいだ、ひとりの人間がその人の全感覚を使って自分の話しを聴いてくれるというのは、とてもパワフルな体験です。そこには何かがギュッと凝縮していくような濃密な時間が生まれます。あるいは、地下鉱脈を探って、少しずつ心を掘り下げていくような感覚とも言えるかも知れません。
もちろん、クライエントさんが耐えられる程度においてしか掘り下げることはありません。(クライエントさんの状態によっては、お話しを聴いて理解し共感的にサポートするだけの場合もありますし、カウンセリングがサポートにならない状態の方にはカウンセリングを受けることをお勧めしないこともあります。)そのため、5cm掘るのに1セッションで進むこともあれば、心が決壊しないように、数年かけて堀を固めて、ようやく5cm進めることもあるのです。
けれど、心のプロセスは成果主義・効率主義に従っているわけではないので、早いほうが良いとか、効率が良い方が良いというわけではないのです。クライエントさんの心にとって必要な時間と、必要なプロセスはみな違います。
お一人お一人のこころのプロセスに寄り添い、クライエントさんにとってのしっかりした「心の変容のための容器」を提供できるよう自己点検を怠らないようしていきたいと思います。